樋口一葉
概要 ①足跡を辿ろう ②言葉にふれよう ③生き方から学ぼう さらに学ぼう

樋口一葉(ひぐち いちよう) 1872(明治5)~1896(明治29)
明治時代の小説家。東京府の下級官吏の次女として生まれる。父は甲斐国(山梨県)の農民出身であったが江戸に駆け落ちし、維新直前に八丁堀同心の株を買って幕臣となった。14才の時中島歌子の歌塾に入門して和歌を学び、才媛との評判が高まる。17才の時父が借金を残して死去すると一家は困窮し、一葉は母、妹を養うため職業作家となる決意を固める。やがて吉原遊郭に接する下谷竜泉寺町に移り、雑貨屋を開業したが依然生活は苦しく、借金、質屋通いを重ねた。翌年店を閉め、22才で『大つごもり』、23才で『にごりえ』、『十三夜』などの珠玉の名作を次々に発表、「奇跡の一年間」と言われる。24才の時『たけくらべ』を完結すると森鴎外、幸田露伴らの絶大な賛辞を得て名声が高まったが、まもなく肺結核に倒れて短い生涯を終えた。享年24。
薄幸の女性たちの思いを伝統的和文で描写した一葉の小説は自身の生活体験に基づく実感に支えられ、リアリティと余情に溢れる作品となっている。また死の直前まで綴られた日記には、明治期の若く貧しい女性が懸命に生きる様々な心情が綴られており、中には日清戦争など国家の危機的状況に対し、痛切な憂国の思いを吐露した言葉も見ることができる。
①樋口一葉の足跡をたどろう →TOP
『樋口一葉の生涯』 台東区立一葉記念館(17分)
一葉は苦しい生活の中で、自分は浮世を漂う一片の船だという意識を持ち続けていました。しかし内には強い性格を秘め、ひるまず、文学いちずに駆け抜けていきます。
『樋口一葉:貧困、買売春、ストーカー、DV―現代社会にも通じるテーマを描いた女性職業作家の先駆け』 ニッポン偉人伝
勉強熱心で読書好きな一葉は母親に反対され、泣く泣く学業を断念しました。父親が借金を残して死んだため極貧生活が続き、質屋通いをしながら作家をめざします。
『樋口一葉を訪ねて』 私的万覚書
一葉の足跡を辿りながら短歌や日記の言葉、親友が一葉について語った言葉、ゆかりの地などを紹介。一葉は歌会では上流階級の女性と、帰宅すると吉原の遊女など最底辺の女性たちと付き合います。これが一葉の文学に深みを与えました。
②樋口一葉の言葉にふれよう →TOP
『第1回 樋口一葉の短歌とその生涯~萩の舎入塾~』 短歌一期一会(4分)
上流階級の子女が豪華な装いで集う短歌の会。一人粗末な身なりの一葉は「なさけなく 、悲しいこと」と嘆きます。しかし一葉の短歌は…。当時の一葉の暮らしぶりも紹介。
『第2回 樋口一葉の短歌とその生涯~初夏の歌と樋口家の悲劇~』 短歌一期一会(3分)
兄の病死、父の死去、婚約の破談と樋口家を襲う相次ぐ不幸。収入が途絶えた女性だけの一家の家計を一葉は戸主として背負うことになります。爽やかな初夏の歌と一葉の困難な時期を解説。
『第3回 樋口一葉の短歌とその生涯~萩の舎での歌合~』 短歌一期一会(6分)
生活の苦労が滲み出た一葉の歌は歌会で敗れます。日記に書いたその時の思いとは…。一葉と親しかった人々についても紹介。
③樋口一葉の生き方から学ぼう →TOP
樋口一葉『塵中日記』(15才から終焉まで約10年間書き続けた日記)
一葉は若く貧しい無力な女性でありながら、日本の現状を憂い、行く末を案じ、なすべき道を探し求めます。幕末の志士のような一葉の気概と覚悟に圧倒されます。
《現代語訳》
「十二月二日晴れ。議会はひどく紛糾している。互いに私行を暴露し、秘密を摘発し、何とも大人げないことだ。夜中に一人静かに目を閉じて思えば、現代社会の有り様は一体どうなって行くのだろうか。無力な女性が何を思い悩んだとしても、ちょうど蟻やミミズが天を論じるようなもので、身の程を知らないのも甚だしいと言うだろうが、女性であっても同じ空の下に生活し、同じように天災が身に降りかかる危険にさらされているのである。この日本の片すみに生まれ、大君のご恩を受けている点では、私はあの大臣や大将と全く同じなのだ。それなのに、私だけが日々切迫してくる我が国の現状を対岸の火事のようにのんびりと見ていてよいものであろうか。安楽な生活に慣れ、贅沢になった人々は、外国の華やかな風俗を求め、我が国の古き伝統を嫌い、軽薄な風潮に流されている。それは日常生活の些細なことから文学、政治という本質的な面にまで広がり、流水がゴミを乗せてどんどん流れるように、どこが終わりなのか留まるところを知らない。(中略)
こうして流れていく我が国の行く末はどうなってゆくのか。外には鋭い鷹【注・ロシア】の爪や獅子【注・清国】の牙が我が国を狙っている。植民地や保護国にされたインドやエジプトの前例を聞いて、身体が震え、心もおののく。たとえ物好きと後世の人に嘲(あざけ)りを受けても、この世に生まれ合わせた自分が、何もしないで終れるであろうか。なすべき道を探し求め、なすべき道を行うだけだ。」
「道徳はすたれ、人情は紙のように薄くなり、全国の政治家も民間人も私利私欲ばかりを追求し、国家のあるべき政治方針を考える者もなく、世の中は一体どうなるのだろうか。力もない女が、何を思い立ったところでどうにもなるまいが、私は今日一日だけの安楽にふけり、百年後の憂いを考えない者ではない。たとえわずかでも人としての心を備えている者が、生涯の情熱をそそぎ、死をもいとわず、天地の法則に従って働こうとする時、賢人であろうと愚者であろうと、また男であろうと女であろうと何の区別があろうか。この私を笑いたい者は笑え、そしりたい者はそしるがよい。私の心は既に天地自然と一体になっており、私の志は国家の根幹にあるのだ。」
さらに学ぼう →TOP
『文学アニメーション 「たけくらべ」』 台東区立一葉記念館(6分)
幼い男女の淡い恋心と別れを描いた名作『たけくらべ』をアニメで紹介。
『文学アニメーション 「にごりえ」』 台東区立一葉記念館(5分)
飲み屋の美しい女性とその馴染み客との関係を描いた名作『にごりえ』をアニメで紹介。
『樋口一葉の足跡~短歌と史跡をたどる~』 短歌一期一会(25分)
一葉生誕の地、短歌を学んだ萩の舎跡、通った質屋の伊勢屋、一葉記念館、終焉の地などを紹介。少女の頃、読書好きな一葉は長編小説『南総里見八犬伝』を三日間で読み切り、ひどい近眼になった逸話など面白いエピソードも。
東京,明治,文学者,努力と強い意志・克己心,KY